読者の皆さんは日本人のユーチューバーの動画を見たことがありますか?
なぜ彼ら/彼女たちの中にマスク(mask)を着けている人が多いのか、不思議に思ったことはないでしょうか。
今回の記事では、日本人のユーチューバーにマスクを着けている人が多い理由と、日本のソーシャルメディアについて、私の意見を書きます。それは日本の文化と密接に関係していると思うからです。
まずここで、「マスク」という言葉の定義をはっきりさせておきます。この記事で扱うマスクとは医療用ではありません。あくまで仮装のための小道具のことです。
日本人とTwitterについては以下の記事にまとめています。よろしければご参照ください。
はじめに
読者の中には「こんな記事で説明されなくても、もう知ってるよ。だから、日本人はシャイで臆病で、マスクをしないとネットで自分を表現できないんでしょ?」と思われた方もいるでしょう。
それはある面では正しいのですが、あくまで一面的な理解に過ぎません。この記事を見つけたからには、このテーマに興味があるのでしょうから、別の側面を知ることは損にはならないでしょう。
会社の就業規則 – 副業の禁止
日本企業の多くは、就業規則で従業員の副業を禁止しています。ここでいう副業とは、YouTubeチャンネルを作って動画を投稿し広告収入を得たり、ブログやTwitter、Instagramなどから間接的に収入を得たりすることを指します。
ちなみに、文字通り一生同じ同僚と仕事をし、同僚からの嫉妬や羨望、妬みを受けなければならない日本の公務員は、全員副業が禁止されています。
従業員が就業規則を破って副業をしていることが発覚した場合、会社はその行為を理由に従業員を解雇することができます。会社によっては、このルールが形骸化しており、従業員の副業が会社の業務に重大な影響を及ぼしたことを会社が証明しない限り、従業員を解雇することができない場合もあります。
しかし、リストラの際に従業員に自主的に退社をさせるノウハウだけでなく、様々な方法で会社に居づらくさせ、退社を強要することもまた一般的です。
つまり、こうした企業で働く人々は、収入を得る可能性のあるソーシャルメディア上で活動する際、素顔はもちろん、身元を明らかにすることもできないのです。
ここにまず最初の、日本人がマスクを着けた状態でソーシャルメディアに姿を現さなければならない理由があります。
収入があるかないかというのは、核心ではない
実は、従業員が副業でソーシャルメディアから収入を得ているかどうかは、この問題の核心ではありません。
実際のところ日本企業では、社員が文字通り全身全霊で会社に貢献しているか、日々の仕事で燃え尽きるほどエネルギーを発揮しているか、最大限の生産性を発揮しているか、が重視されます。つまり、論理的に妥当な方法で実際に測定される生産性よりも、大げさに言えば、一日の終わりにどれだけ疲れているかが重視されるわけです。
「社員が毎日全力で働いていたら、その社員が副業をする気力も時間もあるはずがない。あるとすれば、それはその社員が怠け者だということだ」
このような考え方は、多くの日本企業の経営者や社員が持っています。このような仕事観は、かつて日本が繁栄し、企業が文字通り従業員を終身雇用することができた時代の名残です。
特に、特定の年代の日本人は、毎日深夜まで残業して、帰宅したら寝るだけというように、完全に仕事のことで頭がいっぱいになっていました。休日は疲れ果ててただ寝て過ごすだけであるべきで、そうではないビジネスマンは、不真面目で怠け者で、会社にとって迷惑な存在だと考えている人が、いまだにたくさんいるのです。
そのような会社で働いている人が、労働基準法をもちだして会社と戦おうとしたり、上記の考え方は時代遅れだと主張して会社を改革しようとしても、勝ち目はありません。ですから、副業をしていることを徹底的に隠しておくことが、最も手っ取り早く、合理的な解決策となります。
外見と日本の文化
日本の文化では、他人の外見について言及することのマナーのハードルが他国とは異なると感じます。そのため、もしあなたがSNSで自分の素顔をさらけ出すとしたら、日本ではまずあなたの外見が重要な評価ポイントになってしまうことは避けられません。
あなたは単に好きな風景や自慢のバイク(a motorcycle)、経営しているレストランを紹介したいだけかもしれないのに、日本の文化ではあなたの動画作品の評価ポイントとして、あなたの外見も非常に強力に視聴者の心を左右します。
SNSでは「ブスだな」「そのブランドのバッグを紹介するには顔が地味すぎる」など、心ない批判が容赦なく寄せられます。それらの中には誹謗中傷ではなく、親しみを込めたコメントもありますが、それを文章だけで判断するのは個人の理解力に依拠するところが大きいのです。
そうした外見への批判から心を守り、SNS上で自己表現を続けるために、日本人の中には仮面を着けることを選択する人たちがいるのです。

日本人のYouTubeチャンネルで、上記のキャラクター(characters)を使っている動画を見たことがある人も多いのではないでしょうか。
このキャラクターは「ゆっくり」(Yuukuri)と呼ばれ、多くの日本人ユーチューバーに使用されています。高精度の音声合成エンジンを搭載し、無料で利用できることから広まり、多くの日本人がこのフォーマットを使って動画を作成していることから、過去にはYouTubeのAIが「ゆっくり動画」をコピーコンテンツと誤解し、すべてのゆっくり動画から一斉に広告が停止されるという騒動もありました。
世間様という相互監視と均質性
以前の記事で私は、日本社会を非常に特徴づけているものとして、その「同質性」をあげました。日本では、ソーシャルメディア活動もこの同質性の影響を大きく受けています。
個人の外見と同じように、視聴者は、その人物が何を表現しているかだけではなく、何歳で、どんな仕事をしていて、どれくらいの学歴があり、どれくらいの収入があるのか、などにも興味を持っています。
それは、たとえその個人が表現したいことと関係がないように思えても、重要視されるのです。これは日本人を支配している同質性によるものです。その人が何を表現したいのかではなく、その人がどれだけ所属する組織が要求する同質性に適合しているか、あるいは逸脱しているか、その人が年齢にふさわしい望ましい生き方をしているかどうかが、まずチェックされるわけです。
それに嫌気がさし、SNSの中だけ別人として自由に表現したい人は、素顔はもちろん、体の一部すらも見せずに仮面をつけて表現するという、表現上の制約が多い方法を選びます。
逆に、素顔や身分を明かしたとしても、それが成功につながるかどうかは、もちろんケースバイケースです。視聴者は強力な支持者になることもあれば、執拗に嫌がらせをする敵になる場合もあります。
最悪の場合、どこかの誰かによってソーシャルメディア上で活動していることを勤務先の会社に報告されてしまい、その結果、大変な立場に立たされることも、日本ではあり得ることです。
中には、素顔や身分を隠したままで成功している人もいます。YouTubeのチャンネル「kiwami japan」などはその良い例です。
誰も彼が何者なのかを知らないのですが、チャンネル登録者数は430万人を超え、コメント欄は様々な言語で埋め尽くされている。チャンネルの主な内容は、様々な素材を使ってナイフを作るというものですが、そのアイデアの独創性と、言葉による説明を必要としない普遍性が、多くの視聴者の心を掴んでいるのでしょう。
おわりに
今回は、なぜ日本のYouTuberの多くがマスクをしているのか? について考察してみました。その背景には、日本企業の労働者に対する考え方や、日本文化を理解する上で欠かせない同質性が深く関わっています。
最後までお読みいただきありがとうございました。